上半身がカッと熱くなる……、些細なことでイライラする……。これらの不調は代表的な更年期症状です。
更年期は慢性的な不調が起きやすい時期ですが、この不調には栄養不足も大きく関わっていることをご存知でしょうか?
今回は、横倉クリニック・健康外来サロン(港区芝)院長の医師、横倉恒雄先生、および薬剤師/臨床検査技師の木村英子さんに、更年期の栄養不足について教えていただきました。
■更年期は栄養不足になりやすい
閉経前後は、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが減少しはじめ、ホルモンバランスが崩れます。そこから、からだにあらわれる様々な不調を更年期症状といいます。
この時期は自律神経も乱れるため、食欲減退や過食、食事の偏りが多くみられます。
胃や腸などの消化器は神経やホルモンによってコントロールされているので、更年期になると胃腸のはたらきも低下します。
若い頃と同じ感覚で生活を送っていると、ある日突然からだに変調が……ということにもなりかねません。
■栄養不足が影響している更年期の不調
栄養不足が影響してあらわれる更年期の不調について、例を4つご紹介します。
(1)ほてり・のぼせ
更年期によるほてりやのぼせは、「ホットフラッシュ」とも呼ばれます。
周囲の気温が高いわけでもないのに、急にからだがカッと熱くなったり、上半身に大量の汗をかいたり。頭がうまくはたらかず、ぼんやりとする場合もあります。
(2)頭痛
頭痛のなかでも、更年期症状として多いのは片頭痛です。
片頭痛とは、頭の血管が拡張されることによって起きる、ズキズキとした痛みのことです。エストロゲンの分泌量にゆらぎが目立つ、閉経前に悪化する場合があります。
(3)イライラ
更年期に入ると、感情のコントロールがうまくいかなくなる場合があります。
些細なことが気になってイライラしたり、怒りを抑えられなくなったりすることも少なくありません。とくに理由もなく不機嫌になることさえあります。
周囲の人とのコミュニケーションがうまくいかず、人間関係が悪化することでさらにストレスを抱えるという悪循環も起こりやすいです。
(4)不眠
不眠も、更年期の代表的な症状のひとつです。
不眠の種類には、なかなか寝つけない入眠障害、途中で何度も起きてしまう中途覚醒、眠りが浅い熟眠障害などがあります。
ほてりやのぼせで寝付けなかったり、寝汗をかいて目が覚めてしまったりと、更年期症状が絡み合うことで眠りが妨げられるのも更年期の不眠の特徴です。
■更年期に積極的に摂りたい栄養素3種類
更年期の女性にとくに意識して摂取してほしい栄養素を、3種類ご紹介します。
(1)女性ホルモンのはたらきを元気にする「大豆イソフラボン」
大豆イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た化学構造で、「植物性エストロゲン」とも呼ばれています。
エストロゲンに近いはたらきをすることが近年の研究でわかっており、更年期のエストロゲン不足を補ってくれる貴重な物質です。
大豆イソフラボンが多く含まれる食品
・納豆
・豆腐
・油揚げ
(2)ホルモンバランスを整える「オメガ3系脂肪酸」「ビタミンE」
オメガ3系脂肪酸は、不飽和脂肪酸と呼ばれる海産物に多く含まれる栄養素で、ホルモンバランスを整えるはたらきがあります。
また、オメガ3系脂肪酸が豊富なアマニ油には、リグナンも含まれています。リグナンはポリフェノールの一種であり、体内ではエストロゲンと似たはたらきをするものです。
一方で、ビタミンEは副腎や卵巣に多く蓄えられ、ホルモン代謝とも関係があります。更年期を迎えると不足しがちなため、食事で補いましょう。
また、ビタミンEには末梢の血流をよくする作用もあります。
オメガ3系脂肪酸が多く含まれる食品
・アマニ油
・エゴマ油
・くるみ
ビタミンEが多く含まれる食品
・アーモンド
・ほうれん草
・オリーブオイル
(3)骨を丈夫にする「カルシウム」「ビタミンD」「ビタミンK」「タンパク質」
更年期のエストロゲン不足は、骨密度の低下も招きます。
骨密度の低下は骨粗しょう症の原因にもなり、衝撃に弱く骨折しやすくなります。
骨の主要な成分のカルシウム、そのカルシウムを腸から骨に運ぶビタミンD、そしてカルシウムを定着させるビタミンK、軟骨細胞の原料となるタンパク質は、いずれも丈夫な骨作りに不可欠です。
カルシウムが多く含まれる食品
・牛乳
・チーズ
・ヨーグルト
ビタミンDが多く含まれる食品
・イワシ
・サンマ
・きくらげ
ビタミンKが多く含まれる食品
・小松菜
・ブロッコリー
・干しワカメ
タンパク質が多く含まれる食品
・豚肉
・鶏卵
・大豆
■栄養不足による不調には漢方もおすすめ
更年期の栄養不足による不調を改善するには、漢方薬を用いたアプローチもおすすめです。
漢方薬は、血流や消化・吸収の機能を改善し、必要なところに栄養を届ける手助けをします。血流がよくなることで、疲労感やイライラ、落ち込みなどの精神状態も同時に改善できるでしょう。
自然の生薬を組み合わせて作られる漢方薬は、心とからだのバランスを回復させるため、さまざまな不調を訴える更年期女性に対してはとくに有効とされています。
からだにきちんと栄養素を行き渡らせるためにおすすめの漢方薬を2つご紹介します。
栄養不足による不調が気になる方におすすめの漢方薬
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
胃腸の働きを高めて、消化・吸収の機能を改善し、必要なところに栄養を届けるとともに、からだに気力を充実させます。
六君子湯(りっくんしとう)
胃にたまった余分な水分を取り去り、胃腸の働きを高めて消化・吸収の機能を改善し、消化不良や食欲不振に働きかけます。
慢性的に栄養不足によるからだの不調が気になる場合には、中長期的な服用で体質からの改善を目指しましょう。
また、漢方薬を服用する際は、人それぞれの体質を知ることも重要です。たとえば、同じ更年期症状でも、体質の違いによって適切な漢方薬が異なる場合もあります。
合わない漢方薬を飲み続けることで、思わぬ副作用が起きることもあるのです。漢方薬を選ぶ際は、医師や薬剤師などに相談しましょう。
■食事バランスに気を遣い、更年期の栄養不足を解消しよう!
更年期の栄養不足について解説しました。更年期になると女性ホルモンの分泌が乱れ、からだのさまざまな部分に不調があらわれます。
更年期症状は栄養不足とも深い関わりがあり、適切な栄養素をとり入れることで、症状が改善できる場合もあります。
特定の食事メニューばかりに偏らずに、バランスよく摂取することも健康の秘訣です。
【監修医:横倉恒雄(よこくらつねお)先生 プロフィール】
医学博士/医師(婦人科、心療内科、内科など)。横倉クリニック・健康外来サロン(港区芝)院長。東京都済生会中央病院に日本初の「健康外来」を開設。故・日野原重明先生に師事。病名がないものの不調を訴える患者さんにも常に寄り添った診療を心がけている。新刊本『今朝の院長の独り言』(青春出版社)は10万人の患者が癒されたポジティブなメッセージに溢れていると話題に。
【漢方部分監修者:木村英子(きむらえいこ)さん プロフィール】
薬剤師/臨床検査技師/Vedic Healers Ayurveda basic course 修了。検疫所、病院にて公衆衛生・感染症現場を経験した後、インドでアーユルヴェーダに出会う。現在はAIを活用し、お手頃価格で漢方を自宅に届けてくれるあんしん漢方にて活躍中。
【前回の記事】
・体調不良の原因は水分!?「湿邪」を解消する方法
・放置はNG!更年期世代がすべき「梅雨冷え」対策
・更年期世代は要注意!おりもので分かる不調
・40代以降に急増!下肢静脈瘤の原因と対策
【関連記事】
・更年期不調に◎豆乳と一緒に食べるべき食材
・更年期世代は要注意!おりもので分かる不調
・更年期不調に◎40・50代におすすめのお茶5選
・不調のサインに気づいて!更年期のストレスチェック